ハリセンボン
「絵を描くのやろ。面白いもん、持ってきてやるから」
出嶋さんのおじさんが留守の間にバケツにハリセンボンを入れておいていった。
帰ってきたら、青いバケツの中でハリセンボンが白い腹を出してひっくり返っていた。「なんや、死んでるが」というと、あくる日、水槽を持ってきた。
「水槽をどうするん?」というと、次の日、ザリガニと緑色のヒトデをバケツに持ってきて、水槽の中にざぶんと入れた。バケツの海の水がばしゃっとはじいた。
みどりの座布団のようなヒトデは、たくさんの触手を出して、そろりそろりと移動していった。ヤドカリはごとんごとんとサザエのからをひっぱって歩いている。餌に煮干を少しやった。あくる日、おじさんが生きているあいなめの子と餌にする死んだ魚をほおりこんでいった。たちまち水がにごって魚が死んだ。
ヒトデは苦しそうに水から体を半分出して反り返っている。あわてて海の水を汲んできて、水槽の水を替えてやった。ヒトデは息を吹き返し、ゆるりゆるりと泳いでいった。ヤドカリはうれしそうに歩き回った。
あくる日、おじさんが生きたハリセンボンを一匹捕まえたからと、ほおりこんで行った。ねずみ色の体に白い針を埋め込んで、じっとひそんで丸い目をきょろきょろしている。前から診ると愛嬌がある。じっと見ていたら、おじさんがやってきて、「ハリセンボンが三国の海に上がったから温暖化やとマスコミがいうとるが、ありゃア、何も知らんからや。ハリセンボンなんていつも三国の海にいるがや。遠くから潮にのって泳いでくるがや。みてみいや」そういった。
あくる日、スケッチをしていたら、そばにいた友人が言った。「このハリセンボンうごかへん。死んでいるんと違う?」そういわれてみればちっとも動かない。
目もどんよりしている。「このハリセンボン、死んでいるんとちがう?」とやってきたおじさんに言うと「凍え死んじまったかなあ。何せ、南のあったかい島からやってくるが矢で。また、何かいたら取ってきてやるわ!」そういって帰っていった。それ以来、毎日、水槽の中は何か新しい海の生き物が増えている。
今日はアメフラシが泳いでいた。まるで牛そっくり。ウミウシとも言う。
おけら牧場に小さな水槽の海洋牧場ができたようだ。
