日本再生のグリーン・ツーリズムの必要性と意味
ヨーロッパでも、戦後、豊かさを求めて若者たちは農村を離れ、田舎は過疎になり、自給率も落ち、農家は農業だけでは生活できない状況が続きました。今から20年前に訪れたデンマークでは、若者たちが田舎を離れ、都会に出て、残されたお年寄りたちがヘルパーの助けを借りて、自立の暮らしを続けている様子を目の当たりにしました。
7年前に訪れたドイツのハンブルグ近郊の小さな町、ヴィンゼンの農村では、過疎が進み、農家を継続する若者もいなくなって、お年寄りがなくなったあと、農家のトラクターや農機具や家財道具が広い体育館のような建物の中に集められ、村の競売にかけられていました。その競売の残りの品々が展示され、新しく農業を始めるために村へやってきた人達に安い値段で転用され、その代金は村の維持費に使われていました。
都会へ出た若者たちはお年寄りたちを、都会へ招きますが、住み慣れた田舎を離れることの出来ない老夫婦や、都会へ出ても一人故郷へ帰ってしまうお年よりも多く、社会問題になっていました。
そこでドイツでは農村に住む若い夫婦たちに助成金を出して、広い農家の土地と家を利用して、お年寄りの共同のホームを作り、ふるさとにお年寄りが助け合って暮らし、若い夫婦が村に住んで、農業を営みながら、農業だけでは生活できない部分を、買い物や生活の手助けが出来るよう、元気なお年寄りの生活の手伝いをすることによって経済的に成り立つようなシステムを作り始めていました。
また、畜産農家の糞尿や、町の人達の生ごみやチップを集めてバイオマスをつくり、発電し、自治体に売電して、畜産経営だけでは成り立たない部分を売電によって生活できるようにシステム化していました。バイオマスや太陽光発電、風車などの自然エネルギーによる環境に配慮したエネルギーを生産すると自治体は電力会社の電気より高い値段で購入しなければならないことになっています。
また、自分の住む村や農場で取れた野菜や果物、チーズや牛乳などを原料としてレストランを開き、都会からのお客様を招き、そこでしか食べることの出来ない地域の食べものをいただいてゆっくりと時間を過ごしてもらう農家レストラン。
広い農家を改造し、あるいは馬小屋や牛小屋の二階三階に部屋を作り、都会のお客様に、夏の長期バカンスを利用して一週間や2週間、家族連れでゆっくり滞在してもらう台所付の農家民宿。お客は村のお店で買い物をし、自炊をしたり、村のレストランやパブを利用し、田舎での暮らしを味わう。
都会の家族は日ごろの仕事から解放され、ストレスをとり除き、家族の絆をみつめなおし、ゆったりとした時間を過ごす。大人たちはもちろん、子供たちはカヌーや自転車、馬に乗ったり、農業体験などの外、様々な自然体験をし、日ごろ都会生活や学校では学ぶことの出来ない生活体験をする。そのことによって、子供たちの心や体のストレスを取り除き心身を育む。イギリスやドイツでも子供たちの心が荒れ、大きな社会問題になったころがありました。そのときに自然の中で子どもたちと一緒に暮らし、家族のかかわりを見直す長期休暇が大きな役割を果たしました。
グリーンツーリズムは牛飼いから見れば、人間の放牧です。種が付かなくなって、子牛を産まなくなったかあさん牛を山野や牧場<まきば>に放牧すると、牛は土をなめ、草をたっぷり食べ、太陽の光や自然の風の刺激を体いっぱい受けてホルモンを放出する。ホルモンのバランスは草や笹などの牛本来の餌によって分泌され維持される。それによって、発情が来て、排卵し、種をつければ受精し、着床しやすくなる。すなわち生命を維持し、つなぐ繁殖の基本は、太陽の光や風などの自然の刺激、ホルモンのバランス、食べものと栄養のバランスによるのです。自然の中に放たれた牛は生命の繁殖機能を再び取り戻し、もう一度受精師、着床し、子牛がうまれることが往々にしてあるのです。長期バカンスなどのグリーンツーリズムはそういう意味で人間の自然の中での放牧のように思えます。農山村の自然のなかでストレスを取り除き、新鮮なおいしいものを食べて、風や光の刺激を受けてホルモンを充分に分泌し、生命活動を取り戻しているのです。身も心も都会のストレスから開放され心身の健康を取り戻すことによって家族の関係を見直し、修復し、元気になって再び、都会の暮らしに戻っていく。農家にはそういう人達を手助けする力と役割をもっていて、ヨーロッパの長期バカンスには大きな人間の営みの復活があるのです。
自治体によっては農山村で長期バカンスを過ごす子供連れの家族には町や市からの助成金が支払われ、学校では授業の単位が取れるシステムもありました。
また、農家民宿や、レストランには、都会からお客様が来ることにより、地域のお店やそこに住む村の人達と交流し、農家は農場で取れた農産物を使ってもらい、滞在費をもらうことによって、その村全体がうるおい、農業だけで生活できない部分を補っています。国全体で都市と農山村をつなぎ、中山間の辺境の村々でも、そこに人が住み着いて農林業を営み生活が出来るような取り組みをおこない、それが今ではEU.・ヨーロッパ連合全体での都市と農村をつなぐシステムになっているのです。
陸続きの国々で成り立つヨーロッパは、戦争の歴史でもありました。第2次大戦後の反省から、それぞれの国が自給率を上げ、自立し、平和に暮らしていくための方法を模索してきました。自分の国が侵略されないためには、辺境の地をきちんと守ることが大切です。そのためには人が住んで生活し、景観を維持し、ほかからの侵略を守るためにいつも目を見張らせていることが必要です。
グリーンツーリズムは中山間地に人が暮らし、町の人がそこに訪れ、自国がどんな国であるのか、自然の環境や農林業・農山村を知り交流し、普段目に見えない部分を見、都市のお金を見えない部分にも注ぎ、維持していくための国を守る国防の役割をも果たしているのです。ホテルや旅館の少ない時代の昔、農家の空いた部屋に泊めてもらいながら、国から国を旅する人々の習慣が、農家民宿の長い歴史を支えています。
周囲を海に囲まれ、他からの侵略をまぬがれた日本では、自分たちの国を守るという国防の意識はほとんど育っていませんが、グリーンツーリズムは生活の中から身についたヨーロッパの深い知恵から生まれたものです。
そのために農家民宿や、農家レストランを開く場合、日本では各県の農業改良普及員の仕事に当たる人達が相談員としてアドバイスを行い、その農家が民宿を営む場合には経営がうまくいくかどうか、家族の人間関係、経営者や中心となる夫婦の適性を判断し、ゴーサインがでれば、どういう形の民宿にしたらいいのか、周囲の環境、景観を配慮し、形態やデザイン、助成金を得る方法など専門家のアドバイスを受けることが出来ます。また、女性たちは夜間などを利用して、調理、ベッドメーキング、接待など接客業に必要な専門的なことを学び、資格をとることが出来るようになっています。
日本でもグリーンツーリズムの必要性が言われ、農家民宿や農家レストラン、体験施設が出来つつありますが、本来のグリーンツーリズムの意味を理解し農山村のある田舎の景観や環境を美しく守り、維持し続けるために、都会の消費者や、学生、企業の理解と応援を取り付け、自分たちの住む国土を守り続けるシステムを積み上げていく必要があります。
私たち田舎のヒロインはNPOとして、学生や食品企業に携わる社会人とその家族、に働きかけて、グリーンツーリズムを推奨し、農山村の美しい国土を守って生きたいと思います。

